学術ジャーナルにおけるレポーティングの重要性と実践法 <ISMTE参加報告>

8月上旬にカナダのモントリオールで ISMTE(国際マネージング&テクニカル編集者学会)の総会が開催され、今年もSeeklのメンバーが参加してきました。
興味深いセッションが目白押しでしたが、今回はジャーナル運営において身近な存在である、レポートに関するセッション「学術ジャーナルにおけるレポーティングの重要性と実践法」について共有します。
レポーティングの重要性
学術出版の現場では、日々の編集業務や査読対応に追われる中で、「レポーティング(報告業務)」は後回しにされがちです。しかし、実はこのレポーティングこそが、ジャーナルの健全な成長に欠かせない活動です。
レポーティングとは、特定のデータや情報を整理し、分析結果を文書やグラフとしてまとめるプロセスのことです。レポートを通じて過去の傾向を把握することで、将来の動向を予測するための「知識の蓄積」が可能になります。これにより、編集委員会や編集長は事実に基づいた意思決定を行うことが可能となります。また、定期的なレポーティングによりジャーナル運営における課題を早期に発見し、改善策を講じることが可能になります。
レポーティングでジャーナルが着目すべき主要な指標
今回のセッションでは追跡すべき主要な指標として以下のものが紹介されていました。
- 査読・編集のスピード:投稿から一次判定、最終判定までの日数
- 投稿動向:年間の投稿数、5年間の推移、論文タイプの内訳
- 関係者のパフォーマンス:編集者の応答率、査読者の承諾率やレビュー提出の迅速さ
- 著者情報:所属機関、地域分布、研究資金の有無
- 研究倫理関連:IRB承認、インフォームドコンセント、資金源、図表の再利用許可状況
これに加えて被引用状況として、掲載論文の被引用状況、地域分布などがあるとジャーナルのトレンド把握に役立つとのことです。
効果的なレポーティングのために
効果的なレポーティングのためには、レポートの目的や活用方法を明確にしておくことが必要です。
下記のフレームワークを使うことで、レポートを必要とする編集委員会や編集委員長などの意思決定者と、レポート作成担当者との認識を揃え、効率的にレポートを設計することが可能になります。
[レポーティングのフレームワーク]
- 主変数:変化を追う数値の決定(例:投稿数、査読日数)
- フィルター条件:対象データの選別(例:新規投稿のみ、最終判定の出た論文のみ)
- 期間設定(例:2024年1月〜2024年12月)
- 補足情報(例:著者地域、編集者名)
- レポートの用途(単発利用か、定期報告か)
なおレポートに現れる数値はあくまで出発点であり、重要なのはその数字が示す「意味」を読み解き、ストーリーとして伝えることです。
そのためには以下の手法が有効である、との提言もありました。
- 複数の指標を組み合わせて「天気予報」のように全体像を描く。
- 異常値やトレンドの変化を「なぜ起きたのか」と問いかける。
- 編集委員や出版社と議論し、背景要因を補完する。
レポーティングはジャーナルの未来を形づくる戦略的な営み
レポートは単なる「数字の羅列」ではなく、ジャーナルの未来を形づくる戦略的な営みであるべきです。
- データを正しく定義し、継続的に追跡すること
- フレームワークを用いて効率的に設計すること
- 物語として解釈し、関係者と共有すること
これらを実践することにより適切かつ強固な意思決定を行い、ジャーナルの価値を高めていくことができます。
Seeklではジャーナルのあらゆる課題やニーズに応えるべく、投稿査読状況に関するレポートはもちろん、被引用状況やジャーナル・インパクトファクターに関する調査やレポート作成も提供します。ご興味のある方は是非お気軽にお問い合わせください。
ジャーナルコンサルティング Seekl
https://seekl.jp/
なお、 ISMTEの参加記事についてはS1M News第31号、Seeklコラムにも掲載していますので、ぜひご覧ください。
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